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大阪地方裁判所 昭和36年(ワ)484号 判決 1964年3月11日

原告

秦トミエ

右訴訟代理人弁護士

北村厳

被告

米沢寅之

右訴訟代理人弁護士

山口伸六

主文

被告は原告に対し、別紙目録一、二記載の各物件につき昭和三三年一二月二三日大阪法務局布施出張所受付第一三二一一号をもつてなされた同日付代物弁済予約を原因とする所有権移弁請求権保全仮登記(但し、昭和三六年一月三一日同法務局出張所受付第一〇二〇号をもつて原告名義に移転の付記登記ずみ)にもとづき、原告が昭和三六年一月三一日付代物弁済を原因とする所有権移転の本登記手続をすることを承諾せよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  申立

一、原告

主文と同旨の判決を求める。

二、被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二  事実上及び法律上の主張

一、原告

1  訴外幸福相互銀行は、昭和三三年一〇月四日訴外株式会社三洋との間に、福種五〇〇万円会契約番号自第二二七五番至同二三二四番の相互掛金契約(契約金五〇〇万円、昭和三三年一〇月以降毎月の掛金一二万五〇〇〇円、毎月四日払込、四〇回掛)とともに継続貸付契約を結び、同三三年一二月二三日別紙目録一、二記載の建物(以下本件建物という)につき、債権極度額を二〇〇万円とする根抵当権設定契約及び三洋が右契約にもとづく借受により訴外銀行に対し負うべき債務を履行しないときは債務残額の支払いに代え右建物所有権を同銀行に移転する旨の代物弁済の予約をして、同銀行のため右代物弁済予約による所有権移転請求権保全の仮登記(昭和三三年一二月二三日受付大阪法務局布施出張所受付第一三二一一号)をすませ、また橋本三次は、同銀行との間で、右三洋が同銀行に対し負うべき債務の追担保として、本件建物の敷地を含む別紙目録三、記載の土地につき、右銀行と三洋間の契約と同様の内容の根抵当権設定契約及び代物弁済の予約を結び、右銀行は、これにもとづき同年一二月二四日右各不動産につき代物弁済予約による所有権移転請求権保全の仮登記をすませた。

2  その後前記銀行と三洋とは、前記継続貸付契約による銀行の三洋に対する債権の担保として、前記1、で述べた担保のほか、右銀行と訴外三洋との間の相互掛金契約が解約された場合に三洋が右契約にもとづき訴外銀行に対して有するべき掛込みずみ金員の返還請求権の上に質権を設定することを約し、さらに同銀行は、右三洋に対する債権の担保のために、訴外小笠原幸三郎との間で、同人が昭和三三年六月二四日に加入した福種二九七―三五六番、契約金額三〇〇万円、満期同三五年二月二四日の相互掛金契約にもとづく前同様の掛金返還債権の上に質権を設定する旨を約した上、右三洋に対し昭和三三年一二月二五日に弁済期同三七年二月四日の約で金二五〇万円を貸渡し、さらに同三四年三月一四日に金二五〇万円を弁済期同三七年二月四日の約で貸渡した。そして右各貸付けの際には、当事者間において、もし訴外三洋が前記1、に述べた右銀行と三洋との間の相互掛金契約による同銀行に対する月掛金債務の履行を一回でも怠るときは、右三洋は、その借受金五〇〇万円につき弁済の期限の利益を失い、即時全額を返還すべく、右銀行は、三洋との間の相互掛金契約解約により三洋が同銀行に対して有すべき掛込みずみ金員の返還債権と右銀行の三洋に対して有する五〇〇万円の貸金返還債権とを対当額で相殺し得る旨を約した。なお、この間右訴外銀行と訴外三洋との継続貸付契約による債権極度額(根抵当権による被担保債権元本極度額)は、昭和三四年三月一二日に二六〇万円に変更され、次いでに物上保証人である訴外橋本が提供してした根抵当権及び代物弁済予約の目的物件は昭和三四年五月六日に別紙目録四の土地とほか一筆の二筆に分筆され、訴外銀行が権利の一部を放棄した結果、右物上負担等は、右目録四記載の物件についてのみ存することとなつたが、さらに同年七月二〇日に前記権債極度額(根抵当権による被担保債権極度額)は三〇〇万円に変更されるに至つた。

3  ところが前記三洋は、昭和三五年四月以降前記銀行に対する二口の相互掛金契約にもとづく月掛金を支払わず、同年末になつて同年四月分と五月分を掛込んだのみであつたので、同銀行は昭和三六年一月三一日に右三洋との相互掛金契約を解約した。その結果右銀行は、右契約解約により、それまで三洋が同銀行に掛込んでいた二〇ケ月分(昭和三三年一〇月から同三五年五月まで)の掛金計二五〇万円のうち、右掛金契約上の特約(中途解約の場合は三洋において契約高一〇〇〇円につき二〇円の解約手数料を支払う)により差引くべき手数料一〇万円を控除した残額二四〇万円を右三洋に対し返還すべき義務を負うたわけであるが、三洋の右掛金債務不履行のため、前記2、で述べた約定によつて訴外銀行の右三洋に対する貸金債権五〇〇万円は全額につき履行期が到来しているので、右銀行は、昭和三六年一月三一日に右三洋及び訴外橋本に到達した書面により、同人らに対し、同銀行の三洋に対する貸付金債権五〇〇万円と三洋の同銀行に対する掛金返還債権二四〇万円とを対当額で相殺するとともに、右三洋が訴外銀行に対して負うている借受金返還債務残二六〇万円の支払いに代え、別紙目録一、二、四記載の各物件につき、右1、で述べた代物弁済予約にもとづく予約完結権を行使する旨の意思表示をし、これによつて訴外銀行は本件建物を含む右各物件につき所有権を取得した。

4  ところで原告は、昭和三六年一月三一日に前記銀行から同銀行が前記代物弁済予約完結により取得した別紙目録一、二、四記載の物件の所有権を対価二六〇万円をもつて譲り受け、即日代金を完済し、前記銀行名義の右物件に対する所有権移転請求権保全の仮登記につき右請求権移転の付記登記をすませた。原告は、右各物件が訴外銀行に対し担保として提供されていることを知らずに、昭和三五年四月末ごろこれを三洋の代表者である訴外橋本三次から買い受け、代金を支払つてその引渡しをうけたのであるが、買受物件が右銀行に対する担保となつていることを知つたので、やむなく右銀行に再度の対価を支払つた上銀行から権利を譲り受けたものである。

5  ところが、別紙目録一、二記載の各建物には、その登記簿上昭和三六年一月二〇日付大阪地方裁判所の仮差押命令により、被告を仮差押債権者とする仮差押登記がなされている。

6  以上の次第であつて、原告は前記三洋に対し、前記各建物につき所有権移転請求権保全の仮登記にもとづく本登記請求権を有するところ、被告は利害関係人であるから、原告の右本登記手続につき承諾を求めて本訴に及ぶ。

7  被告主張の抗弁(後記被告主張欄2、3、4)についてはすべて争う。

訴外銀行と同三洋との間に締結された代物弁済予約は、同銀行が将来の貸付金につき根抵当権の設定をうけると同時になされたもので、右三洋の将来の借受金債務中右予約完結権行使のときに存する残存債務につき代物弁済予約を完結し得る旨の契約であるが、この方法は銀行業務として通常一般に行われるところであつてあえて異とするに足りず、右のような場合代物弁済予約当時額の不特定な残存債務につき将来予約完結権を行使し得る旨の約定部分を一般に無効とすることは当事者の意思に反するのみならず、右代物弁済予約は債務者である訴外三洋の無思慮窮迫にに乗じて締結されたものではない。もつとも、代物弁済予約完結の際残存債務額が著るしく少ないときは完結権行使が権利濫用の法理により無効とされることはあるであろうが、これはもとより契約自体の有効無効とは別問題である。

また、被告は、前記五〇〇万円の貸金中ほぼ半額に当る二四〇万円が消滅しているのに、残額二六〇万円の弁済に代えて代物弁済予約完結権を行使しても無効であると主張するが、これに関して被告が援用する判決は、特定の確定債権につき代物弁済予約をした場合に関するものであるから、本件に適切でなく、被告の主張は理由がない。のみならず、訴外銀行は訴外三洋に対し一応五〇〇万円貸付けてはいるが、その担保としては、別紙目録一、二、四記載の物件についての前記代物弁済予約のほか債権極度額三〇〇万円の根抵当権の設定をうけており、別に相互掛金契約上の掛込金返還債権の上に債権質を設定し相殺予約をしていることも前述のとおりである。そして、銀行が債務者の預金を預つている場合には、貸金と預金との相殺の可能性及びその相殺後の残債権額について考慮をめぐらした上不動産を担保にとるのがふつうであるから、これを考えると、実質的には別紙目録一、二、四の各物件を担保とする与信は被告の主張する五〇〇万円ではなく、三〇〇万円が限度であるといえる。そして、右銀行は、残債権二六〇万円の弁済に代えて代物弁済予約を完結したのであるがら、右完結権の行使は適法である。

また、被告の後記4、の主張も、前述のとおり本件代物弁済予約が継続的金融取引において債務者が債務を履行しない場合に訴外銀行が預金との相殺等を図つた後の残存債権の弁済の代わりに物件を取得する旨の契約であり、確定額の債務担保のための契約でないことからみて失当である。

二、被告

1  原告主張の請求原因事実(前記原告主張の1、ないし5の事実中4の後段の事実を除くその余の事実)は認める。

2  訴外幸福相互銀行と同株式会社三洋との継続貸付に関する基本契約によれば、同銀行は本件代物弁済予約の完結時において現存する銀行の三洋に対する債権額の如何にかかわらず、右現存額に対する弁済として、原告主張の土地及び建物所有権を取得すべき旨が約されているが、このような契約は、一般的に暴利行為であり、本件代物弁済予約は訴外三洋及び橋本の無思慮と窮迫に乗じてなされたものであるから無効である。

3  仮に右2、の主張が容れられないとしても、一般に代物弁済予約における当事者の意思は、後日被担保債権中の相当額すなわちその残額だけでは当事者が代物弁済契約をしないであろうと思われるような額が弁済されたときは、債権者は代物弁済予約権を失う趣旨であると解すべきであり、また右のような場合は、公平の理念からみても、債権者は右予約完結権を失うものというべきである。(東京高裁昭和三五年七月五日判決)。そこでこれを本件についてみると、前記銀行と訴外三洋との貸付契約においては、別紙目録一、二、四の土地及び建物につき債権極度額を三〇〇万円とする根抵当権が設定されているが、右被担保債権は右三洋の借受金二五〇万円二口計五〇〇万円のいずれに該当するか不明であるから、右各不動産は結局五〇〇万円の借受金の担保として提供されていたことにもなる。そして、右銀行が代物弁済予約完結権行使の意思表示をしたときには、右銀行の三洋に対する五〇〇万円の貸付金中ほぼ半額に当る二四〇万円は弁済ずみとなつていて残額が二六〇万円であつたことは前述のとおりであり、この場合債権者である右銀行の代物弁済予約完結権を消滅させたとしても、右銀行は抵当権の実権の実行により残額二六〇万円の債権の満足を得られたはずである。そうだとすれば、右銀行は、予約完結権行使当時すでに右完結権自体を失つていたというべきである。

4  仮にそうでないとしても、代物弁済予約に当つては、その当事者間において、特別の事情がない限り債権の弁済期までの元利金と目的物の価額とは等価関係に立つものとして評価されているのであるから、前記銀行が被告主張の2、で述べたような特約にもとづき相互掛金契約の解約により訴外三洋に返戻すべき二四〇万円の金員を返すことなく、相殺を理由としてこれを自已において保有したまま、被告主張の2、で述べたような特約を理由として代物弁済予約完結権を行使することは許されないのであつて(大阪高裁昭和三六年二月二七日判決)、訴外銀行は訴外三洋及び橋本の無思慮及び窮迫に乗じて本件物件を取得しようとしたものにほかならず、受益者である銀行にのみ不法の原因が存するから、右代物完済予約完結権の行使は無効である。

第三、取り調べた証拠≪省略≫

理由

一、本訴請求原因として原告が主張するところの1、ないし3、4の前段及び5、の事実については当事者間に争いがない。よつて、抗弁につき順次判断する。

二、被告は、訴外幸福相互銀行と同三洋との間のの本件代物弁済予約が暴利行為であるから無効であると主張する。

ところで、前記争いのない事実によれば、訴外銀行と同三洋との間になされた本件代物弁済予約に、右両名間の継続貸付契約にもとづき将来発生すべき右銀行の三洋に対する債権を担保する根抵当権設定契約とともになされたいわば根代物弁済予約というべきものであること、従つて右予約上の完結権を行使するときこれによつて消滅すべき債権は予約当時特定しておらず、しかも代物弁済により消滅すべき債権額も不特定であつたことが明らかである。

しかし、代物弁済予約は実質上債権担保の機能をもち、本件のような根代物弁済予約も広く行われていることは当裁判所に明らかであるところ、一般に各種の根担保が法律上是認されていることからすれば、右のような代物弁済予約もその効力を否定すべき理由はない。もつともその公示方法は、判例法の発達がなく根抵当権登記のように完備しているとはいえないが、通常の代物弁済予約による請求権保全の仮登記においては、抵当権の登記のように債権やその額等が特定公示されない現状からみても、必ずしも、根抵当権の登記方法につきとられている理論(根抵当権につき一般の抵当権登記をした場合根抵当権の公示方法としての効力を有しない)と帰を一にすべきものではなく、通常の代物弁済予約にもとづく仮登記をもつて足りるものというべきである。

また、本件代物弁済予約においては、完結権行使により消滅すべき債権及びその額が不特定であることは前述のとおりであるが、一般に予約締結時から予約完結権行使時までには相当の日時が経過し、その間債権及びその額の増減変動、代物弁済目的物の毀損、価値の減少、時価の騰落等の可能性があるため、債権者としては予約締結に当り、担保目的を十分達し得る途を選ぼうとし、また債務者もこれを知りつつ債権者に右の便益を与えることにより自已の金融の便を得ようとするのであるから、すでに当事者ことに債務者がその自由意思により一旦発生した債権の一部がその為消滅していても代物弁済予約完結時存する残額についての代物弁済を認める旨約している以上、原則としてその効力を否定する理由はないというべきである。もつとも、右予約の内容が、いかなる少額の残額債権についても代物弁済をもつて決済し得るとの趣旨を含むことが明らかな場合は、その限度で暴利行為の成立を考慮すべきこともあろうが、一般には債権の全額又は額の特定しない残額についての代物弁済予約の内容は当事者双方の公平にかなうよう合理的に解釈すべく、特段の事情が認められない限り、当事者の意思のなかには極めて少額の残額債権でも代物弁済を行うとの趣旨までは含まれないものと解してこれを有効と認めるべきである。そうすると、本件代物弁済予約は、根抵当権の場合と同じように、基本契約にもとづき将来個々の貸金債権が発生した場合、債権者が右契約終了時有する債権についての代物弁済予約完結権を取得する効果を生ずるものとして有効と認めてよく、被告提出の全証拠をもつてしても、その暴利行為の主張に副う事実を認めるに足りるものがないから、右被告の主張は採用できない。

三、次に被告は、相当額の債務弁済により代物弁済予約完結権は消滅するものというべく、本件の場合五〇〇万円の債権につき代物弁済予約がなされているのに、内金二四〇万円の債権はすでに消滅しているから、代物弁済予約完結権は消滅したと主張する。

しかし、被告主張のような一般論は、それが正当としても、その適用は金額の特定した債権について特定の物件のみが代物弁済の目的とされている場合に限られるべきであるところ(被告援用の東京高裁判決も上記のような事案に関する)本件においては、別紙目録一、二の物件のみが訴外銀行の三洋に対する貸金債権五〇〇万円全額についての代物弁済の目的物であつたのではなく、別紙目録三の土地(後に同目録四の土地に変更)にも担保権が設定されており、後には原告がその主張の2で述べるとおりの債権質契約や相殺予約もなされていることは当事者間に争いがないのであつて、右事実関係に(証拠―省略)を総合して考えると、訴外銀行と三洋との約定内容は、別紙目録一、二の物件が、他の物件をもつてする代物弁済や三洋の銀行に対する掛金返還債権との相殺による決済その他の担保手段と選択的に貸金五〇〇万円の全額につき代物弁済されるとの趣旨ではなく、却つて訴外銀行の債権回収方法としては、訴外三洋の銀行に対する掛込金返還債権があれば、まず容易な相殺等の方法により決済し、残債権があれば、その額の如何により別紙目録記載の共同担保の全部又は一部につき根抵当権実行又は代物弁済の方法をとる約であつたことを推認するに難くない。そうすると、訴外銀行が五〇〇万円の貸金債権中相殺により消滅した残額二六〇万円の弁済に代えるため別紙目録の各物件につき代物弁済予約完結権を行使したことを無効であるとはいえないから、被告の主張は採用することができない。

四、次に被告は、訴外銀行が同三洋に対する五〇〇万円の貸金中二四〇万円を返還することなく、代物弁済予約完結権を行使したのは無効であると主張する。

しかし、同一物につき抵当権設定と代物弁済予約がなされた後、被担保債権中の一部が弁済等により消滅した場合は、債権者が当初の貸金元本額と債権残額との差額を債務者に返還する負担付でのみ目的物を残存債務の代物弁済として取得し得る旨説示した被告援用の大阪高等裁判所判決は、確定額債権の全額の弁済に代わる代物弁済の予約がある事案に関し、しかも、特約がある場合を除外しているのであつて、これと比較すると、本件代物弁済予約は、債権中の残額に代わる代物弁済を許す特約があり、しかもその特約の有効であることは前述のとおりであるから、被告の右の点に関する主張も採用できない。

また、前記債権五〇〇万円中残額二六〇万円に代わる代物弁済予約完結権行使が暴利行為であるとの被告主張も、右完結権行使当時における別紙目録記載の各物件の価額、及びその他の暴利行為による無効の要件事実につき格別の立証のない本件においては、これを容れることはできない。

五、なお、訴外銀行が代物弁済予約を完結して目的物所有権を取得し、次いで右所有権を原告に譲渡した本件のような場合、登記方法としては、訴外銀行がまず代物弁済予約上の請求権保全の仮登記にもとづく本登記をすませ、原告は訴外銀行から右所有権の移転登記をうけるのが事実関係に合う常道というべきであるが(予約完結者が仮登記にもとづく本登記手続請求をしないなら、同人からの所有権の譲受人は、予約完結者に代位して、本登記義務者に対し、右登記手続を請求し、かつ、予約完結者に対し、所有権移転登記手続を求めるべきである。)。すでに種々の場合に事実の経過に合わない内容の登記請求が是認されてきており、登記簿上の表示と現在の権利関係を合致させる目的であれば、多少事実の経過に合致しない登記手続請求も、その必要がある限り認めてしかるべきところ、代物弁済予約による完結権を行使した者から所有権を譲り受けた者が、譲受人としての地位を確保する必要から、とりあえず仮登記につき付記登記の方法をとり、代物弁済予約上の権利を承継した旨の登記を経てしまつた後は、右譲受人から本登記義務者に対し直接仮登記にもとづく本登記手続を求めることも、必ずしも公示制度の目的を逸脱するものとはいえず、弁論の全趣旨から訴外銀行、本登記義務者である三洋とも右本登記手続に異議のないことが明らかな本件においては、これを許すのが相当であり、そうである以上、原告から右本登記につき利害関係人である被告に対し右本登記手続請求につき承諾を求めることも許されるものというべきである。

六、以上判断したところによれば、原告の本訴請求は正当であるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用して主文のとおり判決する。(裁判官羽柴隆)

目録<省略>

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